企業系バーチャルYouTuberの善し悪し

 

バーチャルYouTuberの動画を見ている時に、そのVYTが「企業系」か「個人系」かを見分ける方法の一つとして「ハイクオリティーな3Dモデルだったら企業系」とか「プロの声優が声を当てているなら企業系」とか、そういう見分け方が一つの目安として間違いなくあるとは思うが、企業系である事を隠してデビューするVYTもそれなりにいるように感じてる。

 

VYTの場合は「バーチャルな存在だから、バックには誰もいませんよ」というスタンスの方がやりやすいのも確かなので、その辺を考えて個人のふりをするケースが多いのかな、などと思ってる。

 

それに企業名がわかると、企業経由で演者にたどり着くストーカーも出てくるだろうしな。

演者を守るためにも、企業は表に出ない方がいいのかもしれない。

 

 

これが例えば他の業界だったら「企業だとイメージが悪いから隠しておこう」みたいな考え方も実際に存在するとは思うんだが、嬉しい事にVYTに関しては全くの逆で、企業が個人系VYTとVYTファンから尊敬の対象になっている。

 

他の業界だと、大企業は個人を潰しにくるものだし、個人は個人で「体制に歯向かう俺様かっこいい!」みたいな風潮が出てきやすいのに、VYT業界にはそういうのが一切ない。

世間で知られていない小さな会社ばかりだから、というのもあるかもしれんが、いずれにしてもこれは素晴らしい事だと思う。

 

 

そこで今回は企業の話を中心に書こうと思うのだが...。

 

例えば「いちから」という名の企業が作ったアプリ「にじさんじ」の公式メンバー達は、

ご存じの通りVYT業界を電光石火のごとく席巻し、既にブランド化してる。

 

にじさんじがヒットした理由については多くの人が語っているので細かく書くつもりはないが、恐らくまだ出ていない理由が一つあるので、今回の記事ではそれを書いてみようと思う。

 

正確には「にじさんじがヒットした理由」というよりも、

「悪いイメージが先行していたはずなのに、

 なぜVYTファンはにじさんじを見に行ってしまったのか」...という理由だが。

 

 

にじさんじの事を「悪いイメージ」という書き方をしてしまったが、記事の一番上にも書いた通り、他の業界の場合は、大企業であればあるほど「悪徳企業」のイメージがついているケースが多い。

 

で、このVYT業界にはその手の企業が長いこと見当たらなかったわけだが、いちからサンは、下手をすると初めてVYT業界に出現した「悪い企業」になる危険性を孕んでた。

 

なぜならこの会社は、VYTそのものよりも、あからさまにアプリを売りにきた最初の企業だったからだ。

 

いや、本当は企業である以上は商売するのが当然なのだが、VYT業界は他の業界とはまるで違って「新しい業界なのに、既にファンが保守的」という奇妙な事実があったため、他の業界では通じるはずの常識がここでは通じないのだ。

 

だけど、これだけ業界全体がクリーンな業界もそうはないので、ファンが守りに入るのも当然かな、と思ってる。

 

 

で、業界を外敵から守ろうと身構えてるファンに対して、いちからサンは「誰でも簡単にVYTになれるアプリを売りにきたよ」と入ってきたわけだ。

これだとファンからすると、にじさんじ公式メンバーのVYTの事まで「物を売りに来た商売人」というフィルターを通して見てしまうのが心情というもの。

 

今までVYT達とファンとで大切に育ててきたVYTというジャンルを、VYTを愛していない余所者に、小銭稼ぎ目的で荒らされてしまう、と、そういう空気が少なからず出来かけていたように思うんだ。

 

結局、こうやってファンから愛されてる業界というものは、後からやってくる企業に対して、どうしても警戒の目を向けてしまうものなのだ。

 

「壊すなよ? 壊すなよ? 俺達の大切な場所を絶対に壊すなよ?」...と。

 

でも俺は、にじさんじが成功した理由の一つは、自分達が商売目的でやってきた企業である事を事前に明確にしたからではないか、と思ってる。

 

 

だがその理由を書く前にはっきりさせておきたい事があり、

俺は、にじさんじがヒットした理由は企業の力によるものではなく、その大部分が演者個人の力量によるものだと考えてる。

 

もちろん、いちからサンにも良い所は沢山ある。

企業名やアプリ名のセンスの良さ、そしてオーディションで人を見る目の確かさ...この辺は誉めるべき所であると思う。

 

が、それはにじさんじがヒットした事とは少し別の話になる。

 

まずオーディションで合格した演者さんたちだが、かなりの人数がスタートから躓くケースが目立ち、まともに研修を受けた形跡がない。

恐らくは、ほぼ独学で本番に挑んだものと思われる。

 

だから、企業の力で売れた部分は極めて小さく、演者個人の力で売れた部分が殆どかな、と判断した。

 

別に責めてるわけじゃない。

仕方のない事だとも思っているので。

 

何しろゼロから始める事業のため、いちからサンにはノウハウが何もなかったし、スタートしたばかりで企業ブランドも無いに等しい。

だから仕方のない事だとは思うのだ。

 

ただ、個人的に一つ気になった事があり、それは「にじさんじ」に関する宣伝らしい宣伝を俺は殆ど見なかった気がする、という事。

 

まとめサイトで「こういう企業が入ってくる」と目にした記憶はあるが、それ以降は見た事が殆どなくて、気づいたらスタートしてた感じがする。

 

普段から掲示板で情報を共有しているような組織的なファンは、俺とは違う感想を持っているかもしれないが、個人でニュースを集めている俺みたいなファンだとまた違った感想になる。

 

そして当時の俺は、毎日のようにVYTをチェックしまくってた頃なので、

その俺がにじさんじの宣伝を目にした記憶がないって事は、かなり弱い宣伝だったか、あるいは、かなり片寄った場所での宣伝だったと思うんだ。

 

もしかしたら公式サイトを作ってその中で詳細説明してたのかもしれないが、

それだと「自分を知らない人達に、自分の存在を知ってもらう為の活動」ではないよな?

知ってもらう為には自社サイトの外に出て活動しなくちゃいけないからだ。

 

公式サイトというのは「既に自分を知ってる人達に向けた説明の場」でしかない。

だって向こう側からアクセスしてくれるんだから、それだと本来の意味での宣伝ではない。

 

本当の宣伝というのは、自分の事を「もっと知りたい人」ではなく「一切知らない人」に知ってもらう作業だろう。

 

 

後は、マスコミへのプレスリリースくらいしかしてなかったと思うんだが、殆どのVYTファンはマスコミ経由の情報は追ってなくて、恐らくだが、まとめサイトでチェックする人が一番多いんじゃないかと思う。

 

まあ、単に金がなくて宣伝できなかっただけだとは思うが。

 

いずれにしろ、以上の事から考えても、いちからサンが企業として演者のためにしてあげられた事って、想像以上に少ないんじゃないのかね?

 

結局、いちからサンが会社としてできた事は、あくまでも「技術の無い人へのインフラの提供」くらいかな、と思ってる。

 

 

では逆に、にじさんじの演者達が、企業の力に頼らず自力で「配信環境」と「キャラクター」を用意できていたとして、その時彼らは、果たして今と同じ地位を築けたかというと、それはそれで難しいんじゃないかな、と思う。 

 

だって個人系VYTには、自分の存在を多くの人に知ってもらう力がないからね。

一度見てもらえば一見客を常連客にする実力を持つ人でも、一番難しいのは存在を知ってもらう事だからな。

 

しかもグループ制じゃないので、運良く誰か一人がヒットしても、横の繋がりがないため、やはり何人かは脱落していたかもしれない。

 

 

確かに当時のいちからサンは、ノウハウもなく、ブランドもなく、宣伝も弱く、無い無い尽くしだった。

 

だけど、スタート前に「物を売りに来た」というネガティブなイメージがついた事で、逆に「どんなやつなのか一度実際に見ておくか」という気持ちにさせた面もあるのではないか? と思ってる。

 

他にも新しく参入する企業系VYTはいたはずなのに、にじさんじだけが妙な注目を集めていた理由は「技術がなくても誰でもVYTになれる!」という保守的な業界からするとあまり誉められない参入の仕方が、逆に「...見ておくか」という気持ちにさせるのに一役買った部分は確実にあると思ってる。

 

少々妙な言い回しになるが、

「演者達は企業の力でヒットしたわけではないが、企業に所属していたから見てもらえた」

...という事かな。

 

 

もう一度同じ事を書くが、にじさんじの演者は全員、売れて当然の実力者であり、仮に個人系VYTとしてスタートしていても、ちゃんと見てもらえさえすれば売れた人達かもしれないけど、一番難しいのって自分の存在を知ってもらう事だから。

 

結局、演者さんたちはワンチャンスを自力で物にしてみせたわけだ。 

 

モデル自体は3Dじゃないし、企業ブランドもないし、宣伝も弱かったけど、企業系VYTだという事自体が大きなプラスになった好例じゃないかと思ってる。

 

 

それから、他の人に散々書かれてる事なので今更書くのも何だけど、

にじさんじが売れた理由を、上記の理由と合わせて書き出してみる。

 

1・非常に早い段階で、強力なエースを誕生させる事に成功した。

 

2・エース以外の演者も全員能力が高く、また個性も豊かで、一人も外れがいなかった。

 

3・初のグループ制導入という新鮮さと、実際にそれが「横の繋がり」として機能した。

 

4・良い意味でも悪い意味でも、企業所属のVYTだった事そのものが宣伝として機能した。

 

5・いちからサンの社員かは不明だが、オーディションの選考者が非常に優秀。

 

 

この辺が主なヒットの理由だとは思うが、実はこれだけじゃ、業界に自分達の居場所を作る事は難しい。 

この業界で長くやっていくためには、VYTファンから支持される必要があるからだ。

 

そのためには、既存のVYT達と戦争状態にならないようにしなければいけないが、

彼らはにじさんじに対し好意を持って受け入れてくれた。

 

かつてキズナアイちゃんが他のVYTにしてあげたように、今ではみんなが、新しいVYTが入ってくると直ぐに手を差しのべる空気ができてる。

 

結局、これが一番大きかったと思う。

 

 

 

それから、デメリット面が大きいために上の1~5には含めなかった長所がもう一つある。

それは、にじさんじが2Dであるという事。

 

この2Dというのは「企業なのに2Dモデル」という理由で叩かれる原因にもなっているが、物事にはメリットとデメリットがあるものだ。

 

まず2Dは、体を動かす必要がないため、最小限の機材だけで配信ができる。

そのため3Dよりも予算を抑えられる分、大勢のVYTを雇えるため、今まで日の目を見ずに眠っていた優秀な人材が表に出やすくなる。

 

これは逆に言うと、仮ににじさんじが3Dだった場合、今いるメンバーの何人かはVYTにはなれなかった可能性がある事を意味する。

 

3Dよりも2Dの方が予算的に多くの演者を雇える余裕が生まれるはずなので、結果としてニッチなキャラにも手が出せるようになる。

 

そして予算に余裕がなかった場合に消えていた可能性が高いのは、

アキ君、ハジメ君、エルフのえるチャン、ちひろチャン、女神様、この5人の中の何人かは存在していなかったかもしれんな。

 

そう考えたら「2D万歳!」とは思わんか?

 

さらに、完全な個人と違ってグループ制なので、たとえ地味なキャラでも横の繋がりで知名度をあげる事ができるので、普通なら削除対象になりそうな地味なキャラや奇抜なキャラにもチャレンジできるしな。

 

 

それと、予算の問題だけじゃなく、2Dにはもう一つのメリットがある。

 

まず、必ずしも全てのVYT志望者が3Dでやりたいわけじゃなく、体を動かさずにゆったりとくつろぎながら配信したい人だっていると思うんだよ。

 

例えば、にじさんじが もしも3Dだったら、女神様は果たして応募しただろうか?

その答は本人にしかわからないが、2Dだからこそ集まった人材だっているのではないかと俺は考えてる。

 

 

名前を出したのでついでに書いておくが、実はこの女神様、地味に凄い事をしていると思ってる。

 

しゃべるのを仕事としている人は、普通「間」ができる事を怖がるものだが、

なぜかこの女神様は「間」を怖がらず、全くしゃべらない時間が普通に存在する。

心と体を休めながらゆっくりと、それこそ自分の好きなペースでしゃべる事ができる。

 

では聞いてる側が退屈しているかというと、明らかにそうではなくて、真夜中なのに平気で4000人とか人が集まる。

 

ハジメ君も近い感じのしゃべり方をするんだけど、彼の場合、ファンがゲーム画面を見ているという前提でしゃべれるのに対し、女神様の場合は、ファンが自分を常に見て、自分の言葉を待っている状態なのに「間」ができる事を怖がらない所が違う気がする。

 

そしてこの女神様の良さは2Dだからこそ出せている所があると思われ、必ずしも3Dが全ての面で上回っているわけじゃない。

 

だから、もし仮に今後公式で3D化の話が出たとしても、その時は3Dで固定とかせずに、2Dモードと3Dモードを個人の自由で切り替えられるようにしてあげてほしい。

そういう自由があった方がいいと思う。

 

まあ個人的には、3Dの女神様も見てみたいものだが。

 

 

 

最後になるが。

 

今回の記事で「VYT業界では企業が尊敬されている」と書いたが、それはもう過去の話で、

これから入ってくる企業には心しておいた方がいい。

 

残念ながら、もう既にやばい連中が入り込み始めてる。

 

しかも、俺がずっと静かに見守っていた、考察系VYTの新人さんが巻き込まれてしまった。

ふざけんじゃねえ、ぶち殺すぞ。

 

もしも知らない企業からスカウトされたVYTさんは、絶対に自分一人で判断せずに、

必ずみんなで情報を共有するようにしてくれ。

 

そうすれば、最悪のケースでも「企業 対 個人」でなく「企業 対 集団」に持ち込める。