世界初、男性バーチャルYouTuber

 

ー ばあちゃる ー

 

先に本音を言うと、最初は彼の事を快く思っていなかった。

なぜかというと、せっかくの世界初という称号を、よりによってこんな馬の被り物をしたどこの馬の骨(上手い)かもわからないような者に与えてしまうなんて、という負の感想を最初に持ってしまったからだ。

 

ちなみに彼、男性VYTとして世界初というだけじゃなく、男女合わせても最古参VYTの一人らしいな。

キズナアイちゃんからしたら、ようやく現れた貴重な同志が男性で、しかも見た目があれで、一体どんな気持ちで見てたんだろうな、と思う。

 

ちなみに俺は長い事、ばあちゃる氏と富士葵ちゃんの2人の事を勝手に個人系VYTだと思い込んでいて、後で企業系VYTだと知って驚いた口だったりする。

 

多少なり知識の付いた今ならば、知らないVYTを見た時に「高クオリティーの3Dモデル」と「プロの声優」という組み合わせなら企業系のVYTである可能性が高い、と気づけるようになったのだが、当時はまだ2Dとか3Dとかの知識すら持っていなかったため、彼の事を勝手に個人系のVYTだと決めつけて「記念すべき世界初なら、ちゃんとした企業にやってほしかった」と身勝手な意見を彼に押し付けてしまった。

 

そもそも何で企業系VYTだと気づかなかったのかというと、

まず葵ちゃんの場合、初めて見た時に「おいおい、女の子なのにやけに腕がごついな...まあプロじゃないから仕方がないのかね」と腕が気になって集中できずに「ごめん、途中で失礼するね...」と申し訳ない気持ちで動画を閉じてしまった記憶がある。

女の子に対してデリカシーに欠ける発言になってしまい二重に申し訳ないけどね。

 

それと ばあちゃる氏の場合、彼はしゃべり方があんな感じだから「こんなのがプロのはずないわな」と独自基準で判断した。

だから、あのシロちゃんと同じ会社に所属していると知った時は本気で驚いたわ。

企業系、それもシロちゃんの所、と知った後は、現金なもので彼を見る目が変わった。

 

彼の事を軽く調べていく内に「気さくな先輩」という彼なりの立ち回りのようなものが見えてきて、あんな見た目でウザイしゃべり方だけど、別に嫌われてるわけじゃないんだな、と感心した覚えがある。

 

だけど彼の本当の姿を知ったのはそれよりずっと後の事で、

騒ぎになった「のらきゃっと素顔露出事故」の一件がきっかけだった。

 

知ってる人も多いとは思うが、例の「のらチャンが自分の操作ミスから引き起こした、カメラ切り替わり事故」の事だな。

 

情弱の俺は、情けない事に当時この騒ぎに全く気づいておらず、1~2日遅れて情報が入ってきた感じかな。

だから彼らのツイッター上のやり取りなんかも、リアルタイムで見ていたわけじゃないんだが、後から探し出してちゃんと見たよ。

 

ああいうのって、後から見ても、当時の空気感とか傷跡が結構残ってるんだよね。

みんなが声をかけられないでいる、重くて苦しい嫌な空気が見えるというか。

 

腫物扱いの空気が支配する、何とも居心地の悪い空間の中、騒ぎの中心で身動き取れずに震えていたであろう のらチャンに対し、企業所属の男が企業所属である事のリスクを全部無視して平然と声をかけにいった。

 

イメージしてほしい。

誰か助けを必要とする人がいる。

でもその人の周りを大勢の人間が距離をとって取り囲み、好奇の目に晒されている状態。

 

その集団の輪の中心に飛び込むのは大きな勇気を必要とするとは思わないか?

ましてや立場のある人間なら尚更に。

だけど彼は飛び込んだ。 

 

凄えな、と思ったわ。

人を助けるとはこういう事を言うのか、と。

 

俺は思ったよ。

彼はとびきり寒くて、熱い男だと。

 

更に良かったのが、その後の生配信の時に「たまにかっこいい事するから憎めない」と視聴者から誉められた際、なぜ自分が誉められているのか理解できずに彼が戸惑っていた事。

馬の被り物の下に隠された彼の素顔にふれた思いがして「ああそうか、この人はこうやって生きてきたんだ」と感じた。

 

だから、というわけじゃないのだが、今では彼が記念すべき「世界初の男性バーチャルYouTuber」で良かったと思ってる。

 

 

...で、だ。

実はここからが本題だったりする。

 

彼も当然、アカリ姫ほどではないにしろ、

それなりにエゴサーチはしているはずなので、(決めつけ)

自分に対するファンからの評価は、一歩遅れて本人も把握するところとなるはずで。

 

という事は、自分が「のらチャンに手をさしのべた事をファンが誇りに思っている」という事は既に本人も知っているだろうし、また「視聴者が言っていた、たまにかっこいい事する、というのはこの事だったのか」というのも既に把握できているものと思われる。

 

となると、彼はこの先の立ち回りが少々難しくなると思うのだ。

だって、こういう事が続くと必ず叩くやつが出てくるだろ?

「こいつ、他人のピンチを自分の評価をあげるために利用してるだろ?」...と。

 

現に、にじさんじの渋谷ハジメ君が追い込まれていた際に助け船を出した時も、一つだけその手の批判コメントを見つけてしまった。

だからなんだけどね、この記事を書こうと思ったのは。

 

 

それと、上に書いた助け船の件で一つ補足しておきたい事がある。

シンプルに、ハジメ君を「助けたいから助けただけ」というのももちろんあるだろう。

 

しかし助けた理由は他にもあるのではなかろうか?

 

例えば同じ にじさんじ所属の月ノ美兎さんが、身内であるシロちゃんの事を好きだと明言していたので放っておけなかったんじゃないかと俺は考えてる。

結果として、企業が企業に対して救いの手をさしのべた事になるから面白い。

 

それともう一つ考えられる点として、シロちゃんの会社がにじさんじスタイル(グループ制)に挑戦しようとしている事も、今回のばあちゃる氏の行動や気持ちに影響を与えたんじゃないかと思っている。

 

要するに、個人としても彼を助けたかったし、シロちゃんの事も頭にあったと思うし、

同じVYTを愛する企業同士としても手助けしたいと思ったんじゃないかな。

 

いずれにせよ、こういう善意の行動というのは、たとえ最初は無自覚で取った行動であっても、エゴサーチ等により「ファンが自分に求めている役割」を知ってしまった以上、ファンからの期待に応えてあげるためにも、彼はこの先、理想のばあちゃる像を模索していく事になるはずだ。

 

だがその気持ちに水をさす輩は必ず現れる。

「ばあちゃるのヤツ、一度誉められたものだから味を占めやがったぞ」...と。

人を助ければ助けるほど、アンチによる「偽善者が」という理不尽な声も耳に入りやすくなる。

 

 

人のために綺麗な気持ちでした事を偽善扱いされる事ほど悔しいものはないと思うのだ。

だけど本当にかっこいい人ってのは、たとえ偽善者のレッテルを貼られようと、自分が助けたいと思った人に手をさしのべられる人の事をいうんだよ。

 

偽善と言われて悔しい思いをするデメリットと、助けた人の顔に笑顔が戻るメリットと、

どっちが自分にとって大きいか考えてほしい。

俺は、自分に正直に生きた方が絶対に良いと思う。

 

人を助けると一口に言っても様々な形があっていい。

できれば彼には、ヒーローでもダークヒーローでもなく、このままずっとピエロのままでいてほしい。

ピエロなんてレッテル貼られてなんぼの人生だろ。